投稿者:higashi.mutsuhito 投稿日時:2008/11/03(月) 20:23
自由軒は狭いスペースに粗末なテーブルとイスが窮屈に並ぶ、このあたりによくある小汚い店だ。そのくせ客はそこそこ入っている。繁盛しているのならもうすこし店をきれいにすれば良いのに。そんなことを思いながら、私たちはわずかに空いた隙間を埋めるように席に座った。
するとすぐに店のおばさんが注文を聞きにくる。といっても私たちのたのむものは最初から決まっている。問題は小木曽さんがどうするかであり、私たちの視線はおのずと小木曽さんの方へと向けられた。「みなさん、カレーを食べてください。私は別に何かたのみます」。この小木曽さんの言葉を受けて、深谷さんが「じゃあ名物カレー5つ」とおばさんに言う。
それにしてもカレーの話が出るや深谷さんの積極的な動きが目につく。そういえば自由軒の話を持ち出したのも深谷さんだったような気がする。ひょっとするとカレーを食べたかったのは、和泉さん以上に深谷さんだったのかもしれない。
深谷さんに続いて小木曽さんが言う。「それとビールの小瓶に串カツ」。すると店のおばさん、不満そうな顔で「え、カレー食べないの」と聞き返す。「いやあ、おなかいっぱいなんだわ」。じゃあなんで串カツなんぞたのむんだ、といわんばかりの表情でおばさんはもう一度言う。「本当にカレー食べないの」。「いやあほんと、もう食べられんのだわ」。こう言われておばさんもしぶしぶ引き下がる。
まったく小木曽さんの行動するところには笑いが絶えない。振り返ってみれば、あそこでカレーを食べたのはこのことあるを予想してのことではないかとさえ思える。それが狙ったものであるかどうかは別にして、小木曽さんの諧謔のセンスは持って生まれたものとしか言いようがなく、余人にはおよそまねのできるものではない。

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